魚のトリートメントについて再考しょう!


我々のマリンアクアリウムでは海水魚と珊瑚はどちらが難しいのであろうか?と言うことを聞かれます。
海水魚は、野生での元気な状態で水槽へ迎えられるのは、今のところ自家採集しかないだろう。
それが出来ないアクアリストは、ショップより購入するしか手立てがありません。
そういう意味では、海水魚は難しいのかも知れません。

本水槽の他にも、予備水槽が必要になります。
これを我々は検疫水槽、治療水槽、トリートメントタンク、餌付け水槽とか呼んでおります。
水族館でさえ、予備水槽は当然の事であり、生き物は皆「予備水槽」で検査と訓練をするそうです。
ですから、水族館に引越してもすぐに展示水槽には入居出来ず、まず予備水槽で健康チェックや慣らし飼育をするそうです。
この予備水槽は展示水槽の循環システムとは別にして、他からの感染症などを未然に防ぐ様にしていると言われています。

ある程度上手く行っている水槽に入荷間もない新規の魚を導入すると、先住魚が病気にかかって死ぬ事があります。
その逆もしかりです。
又、いったんトリートメント水槽に入れて様子を見てOKであったにも関わらず、上記の様な死亡ケースに見舞われる事もあります。
これらの原因としていくつかありますが、もっとも多いと考えられるのが細菌感染でしょう。
何故、そういう事が起きるのでしょうか?
共通してあげられるのは、トリートメント期間が十分ではなかった事が要因である事も考えられます。
新規魚の糞便から出る細菌群は要注意です。
ですから、トリートメント水槽に入れずにいきなりメイン水槽に入れるのは論外です。
更に、トリートメント水槽で魚類の治療にグリーンエフゴールドの様な抗生物質を投与した後、餌食いが落ちたり、別の病気にかかったりする事があります。これらは、すべて細菌群と関わっています。
我々人間でも、乳酸菌の様な腸内細菌(善玉微生物、又は、 有用微生物 )が我々の健康に大きく寄与している事は良く知られています。
それと同じ様に、魚でも似た様な防御機構が存在しているはずで、魚と微生物の共生関係について
皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

海洋に存在する微生物は、グラム陰性菌の種類では次の様な細菌がある事が知られています。
シュードモナス属(Pseudomonas)、
フラボバクテリウム属 (Flavobacterium)
アルテロモナス属(Alteromonas)
モラキセラ属(Moraxella)
ビブリオ属(Vibrio)
アクロモバクター属(Achromobacter)
といった細菌や腸内細菌科の細菌で 構成されています。
人間に至っては、身体各部に最低21種以上の常在細菌がある事も知られています。

魚類は卵や胎内に存在する時や消化管を除く臓器や筋肉内は普通は無菌的であり、この世に生まれてくると直ちに各種の微生物の定着が始まります。
各種微生物の定着が始まり、とくに皮膚や粘膜など外界と接する部分には一定の微生物群が認められる様になると言われています。
魚類が外界と接触している部位には必ず微生物が存在し、魚類の微生物群の主体は細菌であり、各部位には条件に見合った特有の安定的な微生物相(ミクロフローラ)が形成されると言うことになっています。


海水魚の体表やエラには主として環境に影響された微生物相が出来、シュードモナス属(Pseudomonas)、フラボバクテリウム属 (Flavobacterium)アルテロモナス属(Alteromonas)やモラキセラ属(Moraxella)、ビブリオ属(Vibrio)、アクロモバクター属と言った通常これらの細菌からなる微生物相(ミクロフローラ)が形成されていて、こう言った細菌群を細菌叢と呼ばれています。
細菌叢に関する研究が多く行われ、体表1cm2の細菌数は環境水1ml当たりの細菌 数に近く、細菌叢も類似しています。
また、エラ1グラム当たりの細菌数は環境水1ml当たりの細菌数の10倍から100倍となっています。

沿岸・海洋水 → 101〜3 /ml
体表       → 102〜3 /cm2  → 環境水の菌叢に類似
エラ        → 104〜5 /g    → 
腸内容物    → 107〜8 /g    → 腸管分泌酵素、嫌気的環境・温度
胃        → ほとんど居ない → 低pH環境(強酸性)

こう言った微生物群は、一括して常在微生物叢(indigenous microbial flora 又は、microbiota)と呼ばれています。
色々な影響を宿主である魚類に与えることになる細菌だけをとりあげる場合には、常在細菌叢あるいは正常細菌叢 (normal bacterial flora)という言葉も用いられる様です。

これらの微生物は、宿主にどの様に影響を与えるのでしょうか?
1.通常は宿主に目に見える形での害を与えない場合もあります。

2.相利共生の状態にあり、他の病原菌の侵入を防ぐなどの利益を与えている場合もあります。

3.一方では、宿主の抵抗力が落ちたときには内因感染の原因になるなどの不利益をもたらす場合もあります。

例えば、1と2の場合は善玉微生物に見られる現象で生体に有利に働く場合、
拮抗現象antagonism
(抗生物質の大量投与などによりこの平衡状態が崩れるとその抗生物質に影響されない細菌にやられる可能性が出て来ます。お気をつけてください。)

免疫系刺激作用
(常在細菌の存在はこれらの免疫系を刺激し免疫応答能力や感染抵抗性の付与に役立っている)

発膏素産生
(抗生物質の長期投与により栄養不足が起こることがあります。)

などの現象が見られます。

一方、3の様に悪玉微生物にみられる現象で、生体に不利に働く場合、
感染源source of infection
(日和見感染などの内因感染endogenous infectionなど)

協同作用synergism
(通性嫌気性菌と嫌気性菌が共同して好気性細菌より活発になり、酸素が消費され嫌気性菌の感染が可能になるなど)

宿主の老化,発癌などに与える影響
(アンモニアアミン、硫化水素などの発生)

以上の影響力がある事が分かり考慮する必要があります。
この常在微生物叢を構成する微生物の種類や数は、魚類の種類や魚体の各場所によって異なる事はすでに先程、説明した通りです。
又、同じ魚でも個体差によっては、異なることも考えられます。
平均約35‰の塩類(塩化物88.46% 硫酸塩10.8% 炭酸塩 0.34% その他 0.22% )を含んでいる海水にもフローラが形成され、その水深によっても微生物の“すみわけ”が成立しています。
海洋フローラは外洋 に存在するフローラと沿岸海域に存在するフローラでは構成が少し異なります。
好塩性のビブリオ菌に至っては沿岸に見られます。 
@沿岸に至っては102〜3 /mlで、A海水中では102〜4/ml、B外洋では101/ml となっています。

しかし、都市汚水などの流入により水質が富栄養化してフローラが変化し、藻類による赤潮が発生したり 菌数が104〜6 mlにも達する事もあるそうです。
我々の水槽も有機物の投与、生体の過剰飼育などそれに近い状況になりますが、濾過されれば水槽内の菌数をある程度は減少させる事が可能になります。

海水に含まれる鉱物塩の量は、陸上生物にとっては致命的に作用し、とりわけ強く作用するのが重金属類(微量元素及び超微量元素の大部分)の塩であり、塩の種類も多く毒作用も複合的に作用し相乗的に拮抗的に働きますので、これらの塩類は殺菌作用として働くのかも知れません。
その為、一般に上記これらの従属栄養細菌の繁殖は外洋ほど膨大な水量に伴い栄養状態に反比例してかなり抑えられていると推測されます。
一方、塩素のある水道水と人工海水の素で作られたばかりの人工海水では細菌が無く、細菌繁殖の抑制力はありませんから拮抗状態にはなっていないと思われます。
その為、水槽立ち上げ後の微生物相(ミクロフローラ)に関しては非常に不安定である事はその事によります。

野生の海水魚(ここに野生とつくのは、クマノミでも養殖物が出回っている為で区別の意味で書きました。)がジッパーに網によって捕獲されたとします。
ジッパー(漁師さん)が、現地で大きな水槽にストックしたり、輸送前にアンモニア発生防止の為に絶食させられたり、少ない水量と言う厳しい輸送環境で送られたりします。
これらの過程は地元ジッパーから直接アクアリストに送られれば、環境の変化は最小限に抑えられるのてすが、通常は問屋へ送られ小売店に送られ、そして、アクアリストに渡るのですが、その時点で海水魚は疲れて弱っている事が多い様です。最悪の場合、小売店で死亡致します。
後者の輸送方法では、殆どの海水魚がその度に海水が変わり餌が変わるという環境の大変化を体験する事になり、精神的肉体的なストレスの連続でダメージも相当なものでしょう。
その間は、絶食に近いものがあり、消化管内の微生物相(ミクロフローラ)は衰退か、もしくは、崩壊しているかも知れません。

縁あって海水魚がアクアリストに拾われ、その水槽に魚が導入されますと閉鎖環境と言う水槽の中にあって、不幸にして過密な生体数と不完全な物理・生物濾過、そして、富栄養水と言う条件の環境であれば、悪玉細菌を増やし易い状況になり幾ら体力のある魚でも細菌感染に晒されてしまいます。
さらに、難関は海水魚の餌付けであり、海水魚は人間に与えられる餌を「餌」と認識しない限り食うことはありません。
食わなければ、衰弱死が待っているだけです。
細菌に対する抵抗力が弱まれば、ビブリオ属などの細菌に日和見感染して死亡致します。

幸運にして水槽で餌を「餌」と認識し食べ始めたとしても、消化液を正常に分泌し糞便を出す様にならなければ安心出来ません。
衰退した、もしくは、崩壊しているかも知れない消化管内の微生物相(ミクロフローラ)が安定しなければいけないからです。消化管内の微生物相(ミクロフローラ)が復活出来る様になるまでには、先住魚の居るメイン水槽で細菌感染の無い様に細菌に対する抵抗力が付くまでには、物理・生物濾過が完全に整った細菌の少ないトリートメント水槽にて完全に隔離して収容し、先住魚からの苛めなどの精神的なストレスや未知の細菌に晒されない様にトリートメント水槽で単独で注意深く見守り、新規魚の体調を調整する事が大事になります。
入荷間もない新規海水魚を導入する場合のトリートメントの基本的な考え方は、新規海水魚を分離して飼育する期間を十分取る事によって(1ヶ月以上は欲しい所)、その間に新規魚に新たな環境に慣らし順応させるという発想に立つものであり、ひいては、新規海水魚の体表体内の常在菌叢を安定化させる作業でもあるのです。

海水魚を飼育するアクアリストは、自分の水槽にビブリオ属など各種の細菌が居るのは当然であり、清浄な水質と熟成した生物濾過によって悪玉細菌を抑止している事を再認識する事が大事になります。
この時期に細菌を殺してしまうグリーンエフゴールドの様な抗生物質などの薬物乱用は、海水魚の弱っている消化管内の微生物相(ミクロフローラ)の更なる崩壊に繋がりかねず、そうなった場合、餌を食っても消化出来ない等の餌食いが落ちて死亡と言う最悪の事態になりかねません。
生体にはもともと感染防御機構があり、水温・pH・比重濃度の許容範囲を外すだけで細菌の繁殖を抑えられる場合もありますし、生物濾過の構築に力を注ぎ、アンモニア・亜硝酸などが検出されない、更に、有機物量の少ない低硝酸塩濃度であるなどの清浄な水質の維持が十分に図られていれば、水槽での感染症を防ぐ事が出来ます。
不幸にして感染症などを発症させてしまった場合にはその時点で導入・管理が失敗であった事を再認識しなければならない。
その上で、新たに水槽環境の循環システムの再構築に臨まなければならないでしょう。


(続き)

続・魚のトリートメントについて再考しょう!


海水魚飼育の基本として、本水槽の他にも予備水槽が必要になります。
しかし、残念ながら予備水槽の常設の重要性を認識しているアクアリストはいったいどれ位いるのであろうか?
初心者ほど、その傾向性が多く見受けられる様です。
当然ながらも成功の確率も格段に下がります。
海水魚の飼育成否は結構予備水槽に負う所が大きい様で、これを我々は検疫水槽、治療水槽、トリートメント水槽、餌付け水槽とか呼んでおります。
水族館でさえ、予備水槽は当然の事であり、生き物は皆「予備水槽」で検査と訓練をするそうです。
ですから、新規魚は水族館に引越してもすぐに展示水槽には入居出来ず、まず予備水槽で健康チェックや慣らし飼育をすると言われています。
この予備水槽は展示水槽の循環システムとは別にして、他からの感染症などを未然に防ぐ様にしている様です。

ここでは、トリートメント、あるいはトリートメント水槽と良く表現しますが、これは特別な意味がある訳ではありません。
ショップでは良く使われている言葉であり、習慣的に使っているだけで深い意味がありません。
アクアリストの中には、本水槽以外にトリートメント水槽を常設出来ない方も多いと思いますが、メイン水槽、あるいは本水槽に先住魚が居ない場合は、本水槽が最善の場合がありトリートメント水槽が無くても成功出来る場合があります。

又、新規魚は自家採集か?あるいはショップで購入するか?によって対応が変わって来ますのでケースバイケースになって来ます。
今回は、ショップで新規魚を購入した場合であり、メイン水槽に先住魚が居ると仮定して話をして行きます。
その場合は、本水槽の他にも予備水槽が必要になります。
その方が成功率が上がりますし、トリートメント水槽を常設していなくて新規魚の導入に良く失敗している方は、この機会にトリートメント水槽を常設する事を考えられては如何でしょうか?
その方が楽ですから、成功しやすくなります。
難しい要因があり、それらを解決していないのであれば、解決出来るものも解決出来ないのです。

では、検疫水槽、治療水槽、トリートメント水槽、餌付け水槽とか呼んでいる予備水槽とは、どう言う概念で捉えればいいのでしょうか?
物事の捉え方には広義的な捉え方と狭義的な捉え方があると思います。
しかし、予備水槽に対しては実際の飼育状況が刻々と変化していきますので、臨機応変に対応しないといけませんので画一的な捉え方は状況判断を余計に難しくし、飼育する際の判断を誤りかねません。
広義的な狭義的な捉え方は人によって異なりますし、飼育状況によって変わる事もあり得ますので、広義的・狭義的な捉え方はそれ程重要ではありません。
ですから、いったんその事を脇に置いといて、飼育状況に応じて検疫、治療、餌付け、隔離もすべて関連して繋がっていますので、すべてが予備水槽の一面にしか過ぎないと言う事が分かります。
この飼育状況に対する判断は、飼育経験によって養われる事が多く、飼育理論を知っていても刻々と変化する飼育状況に対応する事が出来ません。
やはり、残念ながら飼育経験による裏打ちが必要になってきます。
何故ならば、失敗して成功して初めて身に染みて飼育理論を理解すると言った側面があるからです。
その為、飼育理論は飼育を身を持って理解する為の手助けにしか過ぎません。

良く巷で言われているトリートメント水槽は、本水槽の水質に近い清浄な環境である事が理想的です。
ここで言う清浄な環境とは、本水槽とは別系統の循環システムを備わった環境であり、過密飼育でない事、有機物が少なく、細菌数が少ない環境です。
アンモニア、亜硝酸の検出が認められないのはもちろんの事、硝酸濃度は高くでも10mg/lまでに抑える必要があります。
これは、換水のショックを出来るだけ無くす為であり、水道水の硝酸濃度は高くでも10mg/l までと言う基準があり、我が家では平均6〜8mg/lです。
もし、本水槽の環境の方がベストと判断するには、その水槽環境の内容によります。
具体的には、先住魚が居ない場合、更にライブロックが入っているかどうか、導入する薬剤の有無とその内容によりケースバイケースになって来ます。
ページの関係上、先程話をしました様にショップで新規魚を購入した場合であり、メイン水槽に先住魚が居ると仮定して細菌感染に焦点を当てて述べて行きます。

ここでは新規海水魚がトリートメント水槽に入れる目的は、主に3点あると考えられます。
1つは、輸送での体力低下を回復させる為。
2つ目は、寄生虫を駆除する目的。
3つ目は、メイン水槽に新規魚の糞便から出る細菌群を持ち込まない為。

1つ目の輸送での体力低下を回復させる点ですが、これには色々と考えられます。
まず、満足にも餌を食えず絶食させられている状態にありますので、その為、生体防御力や免疫力も低下している事も考えられます。
つまり、疲れて弱っており寄生虫に対する防御力と細菌に対する免疫力も低下しております。
その為、メイン水槽に寄生虫や細菌がありますと、そこへ新規魚が入れられると体力低下により病気の誘発を招く可能性が高くなり、弱っている状態では先住魚に対して怯えて拒食する可能性もあります。
それを避ける為に、メイン水槽とは別の循環システムで寄生虫の居ない、清浄な水質を保っているトリートメント水槽に収容します。
更に、トリートメントの初期に一時的に比重を下げて塩分に対す負荷を軽減させる事によって体力の回復を図ります。
ディスカスなどの熱帯性淡水魚でも同様で、新規魚が弱っているように感じる場合にはトリートメントの初期に一時的に塩分を入れて浸透圧をあげて用いる事は有効です。

2つ目の寄生虫を駆除する目的としては、淡水浴と比重1.009の低比重治療法があります。
淡水浴は、トリートメント水槽でなくても別容器にてpHと水温をあわせた塩素中和した淡水に数分生体を入れますのでここでは割合しますが、それによって寄生虫を落とすことも可能です。
白点虫は、数分の上記方法ではなかなか駆除出来ず、時間をかけて駆除する必要があり、比重を1.009に下げて周りの浸透圧を低下させ、じっくりと駆除することにより生体の体力の回復を図ろうという訳です。
熱帯性淡水魚ではその逆で塩分を入れて浸透圧をあげて治療します。

3つ目は、問屋・ショップなどの水槽等は色々な地域から海水魚が送られてきてストックします。
当然、多くの新規魚の糞便から出る未知の細菌群が出て常在し、有機物の増加や水質の悪化で病原菌が常在する可能性があります。
病原菌発生の予防観点から抗生物質等の薬物導入が考えられ、その時点で新規魚の体表体内 の微生物相(ミクロフローラ) の衰退か、もしくは、崩壊し、新規魚の体表体内 の善玉細菌により栄養をもらっていた発膏素産生が損なわれる可能性があります。

発膏素産生 の例
*ビタミン B12や ビタミンKなどの各種ビタミンを生産する腸内細菌もある様です。
*腸内細菌の数%は病原細菌の増殖を阻止することを見い出し、腸内細菌が抗菌物質(siderophoreやペプチド)を生
 産して外来性病原細菌による疾病の防除を示唆している様です。
*腸内細菌の酵素(amylase, protease, chitinase)生産能は、宿主の消化にこれらの酵素の寄与を示唆されている様
 です。
*魚類腸内より分離した低温活性プロテアーゼ を生産するシュードモナス属細菌


新規の海水魚は海から採取される為、網による体表のスレが発生し、輸送の過程において問屋・ショップなど水槽等の環境へ移し替えられ、その場で抵抗力減退からそこから未知の病原菌の感染があり得ます。
その為、これら病原菌をアクアリストのメイン水槽に持ち込まれない様にトリートメント水槽にて検疫する必要があり、場合によっては抗生物質を使用して特定の病原菌を撲滅する必要も出て来ます。
抗生物質を使用した場合は、特定病原菌だけではなく善玉細菌や濾過細菌も殺してしまいますので、善玉細菌により栄養をもらっていた発膏素産生が損なわれ、在来の水槽環境の中の微生物相(ミクロフローラ)が不安定になります。
抗生物質による治療後は細菌の居る水槽環境にはすぐに入れられませんので、徐々に善玉細菌を投与して少しずつ慣らす必要が出て来ます。大変ですね。(^_^;)
ですから、抗生物質の使用は最後の手段です。
使用するならば、その後の水槽環境の中の微生物相(ミクロフローラ)の立て直しを考えなければなりません。

Ampicillin (アンピシリン ) やOTC(塩酸オキシテトラサイクリン)などの種々の抗生物質が循環式ろ過槽の硝化活性に浄化能を低下させる可能性が大きい事が見出されています。

もう少し詳しく言えば、海水魚におけるトリートメントの考え方は、新規魚の体表体内の微生物相(ミクロフローラ)がメイン水槽の微生物相(ミクロフローラ)に対する順応化の前準備にあります。
具体的に言えば、新規魚が持ち込む未知の細菌が在来の水槽環境の中の微生物相(ミクロフローラ)の一員に落ち着かせる為の前準備の様なものです。
(人間で言えば、新参者が社会に溶け込んで丸く収まる様にあらかじめ教育すると言う具合にです。)
言葉を変えれば、新規魚を取り巻く微生物相(ミクロフローラ)も、海に居た時の微生物相(ミクロフローラ)とは違って、新たなトリートメント水槽の微生物相(ミクロフローラ)によって置き換えられる事が必要なのです。

この順応化の過程で、新規魚がトリートメント水槽に隔離させられている間にしばしの落ち着いた生活を過ごしてもらいます。
ある一定期間で循環システムが別のトリートメント水槽で飼育し、安定したメイン水槽の海水を少しずつ投入し新規魚の体内や体外をメイン水槽の海水の微生物 相(ミクロフローラ)に慣れてもらう様な感じで、新規導入魚が持ち込んだ細菌をメイン水槽の微生物相(ミクロフローラ)に取り込まれ、その一方で新規魚の 方もメイン水槽の微生物相(ミクロフローラ)に対する抵抗力を持たせる様にします。いわば、細菌相の物々交換の様なものでしょう。
その結果、微生物相(ミクロフローラ)、あるいは、細菌相の勢力が安定し、トリートメント水槽やメイン水槽でもこれらの細菌群が遷移の過程を経て、その環 境に適合する・長期に渡って安定した構成をもつ細菌群として回復され、新規魚をアクアリストのメイン水槽へ入れても細菌による病気が起こらないと言う事で はないかと思います。

2005 年5月に 星野貴行 研究室のサイトhttp://www.bsys.tsukuba.ac.jp/~takachan/index.htmlに腸内細菌叢の改善を通して宿主に有益な作用を示す生きた微生物 ・プロバイオティクスのお話が掲載されていました。
魚病は消化管内の微生物相(ミクロフローラ) の衰退か、もしくは、崩壊しているなどの不安定による事が魚病発症の原因の一因となっています。
その為、星野氏は魚類用プロバイオティクスを開発し、抗生物質や薬剤などを使用しない安全な養殖漁業の確立を目指して、この研究を開始しました。
乳酸菌などのプロバイオティクスの投与によって消化管内菌叢を安定化させる事によって魚病予防に寄与出来るとの見解から魚用のプロバイオティクスを研究されています。
鯉などの淡水魚での実験では、成長促進、免疫賦活、ウィルス病の予防、水質改善の効果が認められ、今後の海水魚での研究に期待出来る様です。
これらの記事を読むにつけ、以前に調べていた乳酸菌に関する宮本久士氏の特許をとられた資料があったのを思い出し、引用抜粋する事にします。
宮本久士氏が 平成8年(1996)4月26日 に乳酸菌に関する特許申請していた事が分かり、 特許公開広報 に 「水族の育成環境改善剤及び環境改善方法」と打てば、詳しい内容が見られます。
特許公開広報  → http://www.ipdl.ncipi.go.jp/homepg.ipdl
「水族の育成環境改善剤及び環境改善方法」の記事 →  http://www.aquagarden.co.jp/kakumei/k-3.htm
乳酸菌の有用性は、既に10年以上も前に先見されておられていた様ですが、残念ながら魚類の腸管内に乳酸菌が発見されたデータは当時では皆無でした。
星野氏の発見・研究は、奇しくも宮本氏の乳酸菌に関する先見性を証明した形になりました。
文献には、(アクアガーデン、島津製作所 共願)と掲載されていますが、後に (アクアガーデン、トヨタ 共願)となりました。

その中に書かれている生きた乳酸菌としては、公知の乳酸菌、例えば
ストレプトコッカス属(Streptococcus) 、
エンテロコッカス属(Enterococuss)、
ラクトコッカス属(Lactococcus) 、
ペディオコッカス属(Pediococuss) 、
ロイコノストック属(Leuconostoc) 、
ラクトバチルス属(Lactobacillus) 、
ビフィズス属(Bifidobacterium) の各菌等のいずれをも用いることが出来る
としています。

これら生きた乳酸菌には、
水族にとっ て有害なバクテリアの発生抑制、水の透明度の向上、水域の着生藻類の抑制、生体排泄物の低分子化、スラッジの減少等の作用がある。
乳酸菌の菌体に は、特にタンパク質、アミノ酸が豊富に含まれ、核酸、酵素などの生理活性物質も含まれている。
それらの物質が他の濾過細菌の有用基質となり、生態系内の窒素循環を良好に進行させる。
乳酸菌には、水生動物が摂取した場合に動物の体質を改善する好ましい作用がある。
動物に摂取された乳酸菌は排泄物ととも に育成水域に供給され、水域の環境を改善することとなる。
乳酸菌が壊死した後には油膜の原因になりやすい粗脂肪が含まれないので、環境汚濁を抑えることが でき、かつ外観を損ねることがない。

と説明されています。いやはや、なんとも凄い効能ではあります。(^_^;)
更に、
上記各種乳酸菌のうち、エンテロコッカス・フェシュウム(Enterococuss faecium) が好ましく、
とりわけエンテロコッカス・フェシュウム(Enterococcus faeclum) SHO−31(工業技術院生命工学工業技術研究所 微生物寄託番号第12253号)が好ましい。
この菌は、使用環境の底砂中、濾過層でも存在し、動物消化気管内でも生存できる。
また、生体排泄物や遺骸中の 病原菌の繁殖を抑制し、水族、人体に対する安全性も高い。

本発明の環境改善剤は、乳酸菌を有効成分とし、例えば、乳酸菌を水、生理食塩水、リン酸緩衝液等に懸濁させたものである。例えば、乳酸菌濃度105 〜12個 /L程度の濃厚な水懸濁液である。
また別の形態としては、乳酸菌を凍結乾燥したものがある。
例えば、乳酸菌を血清、スキムミルク、グルコース等の分散媒と ともに凍結乾燥し粉末にしたものである。
この環境改善剤には、必要に応じて、ビタミン、ミネラル、タンパク質、脂肪酸、生理活性物質等を含ませることもで きる。
この環境改善剤が水懸濁液形態の場合、これを冷凍保 存することによって、生菌保持率を高く維持することができる。
また、凍結乾燥粉末形態の場合は、常温保存しても高い生菌保持率を維持することができる。
さ らに、この環境改善剤では、含有する乳酸菌濃度が非常に高いため、従来技術のものに比べて非常に高い生菌数を供給することが可能である。
また、本発明にお いては、環境改善剤を餌料に配合することも可能である。

本発明の環境改善方法において、このような形態の乳酸菌を、好ましくは乳酸菌濃度が105 個/L以上となるように水族の育成水域に添加する。
乳酸菌濃度105 個/Lとすることにより、優れた環境改善効果が得られる。
好ましい乳酸菌濃度は、育成する水族の種類等にもよるが、105 〜8 個/Lである。
乳酸菌濃度が108 個 /Lを超える場合には、注意が必要である。
その理由は、あまりに菌濃度が高いと、菌が死滅して腐敗した時に水質に悪影響を与える恐れがあり、頻繁な水換え を必要とするためである。
また、乳酸菌の育成水域への添加は、通常1〜数回/週程度、水域へ直接添加するか、飼料と混合して添加し、上記濃度となるように 行なう。
添加濃度と添加頻度(回数)の調整によって、育成する水族に応じた乳酸菌の適正な使用を行うことができる。


以上の話になりますが、
もし、今すぐ乳酸菌を手に入れたいのであれば、乳酸菌の中では「エンテロコッカス・フェシュウム(Enterococcus faecium)」 が一番好ましい様です。
ここにてhttp://www.newmic.co.jp/goods.html 「健康ヨーグルト種菌」を入手すれば、乳酸菌の中では「エンテロコッカス・フェシュウム(Enterococcus faecium)」 が上記の種菌では含まれている様です。
但し、試す方は自己責任でお願いする事になりますが、宮本氏の話では乳酸菌を使わなくても宮本氏が開発した
マリンバクターには乳酸菌が含まれていませんが、放線菌類(医学でも重要な存在でストレプトマイシン、クロロマイセチン、テトラサイクリンなど抗生物質の製造に関与しています。) がカビなどを防ぐ役割をするなどの乳酸菌のような拮抗作用(投与したらビブリオが収まったとか?)は認められる様です。
ですから、マリンバクターでも十分である様な話を伺ったことがあります。
事実、私のところでは乳酸菌がそれほど必要な事態に遭遇した事がありません。
乳酸菌が必要と言う方は、余程その飼育環境が悪いのか?あるいは、基本を見直す必要な可能性がある?そのいずれかしか考えられません。
海水魚を飼育するに当たり、トリートメント水槽を常設するのは海水魚飼育の基本中の基本です。
その上で、近い将来に海水魚用プロバイオティクスが流通されれば、トリートメント水槽に乳酸菌を投与する事に よって新規魚の体調の調整に寄与したり、あるいは、トリートメント水槽を常設しているが、抗生物質を投与した水槽に日和見感染予防に乳酸菌を投与すると言 う方法も浮上してきますので、今後の海水魚用プロバイオティクスの動向が期待されます。

飼育の基本を守らずして成功するのは難しくなります。
トリートメント水槽の常設をとっても、飼育の基本をもう一度見直し再認識する事が必要になります。