えっ! 白点シストは何で覚醒するのん?(・・)

実は、 (白点虫の)シスト内部での仔虫の増殖にはある濃度以上の溶存酸素が不可欠であることを発見・・・・・と言う記述について、どうやら誤解されているのではないか?と言う懸念を覚えました。
と言うのも、
独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所にこの掲載の許可をお願いしました時に、関係者からは良永室長がすでに引退されているとお聞きし、間接的にその引用掲載の許可を頂きました。
今となっては、この真意についての確認が不可能になりましたが、研究内容の文章を読む限りにおいてはあくまでも自然界もしくは漁場での話であって、飼育水槽に当てはめるのにかなりの無理があるのではないか?と推察致します。
漁場での白点虫発生時期・海況の資料から、白点虫の発生が海水温が下がり始める秋口に集中すること、台風通過後にも発生することがあることに気付きました。
それらの知見をもとに、「夏場に形成された水温躍層が表層水温低下にともなって崩れ、表層から底層に溶存酸素が供給される。溶存酸素がある濃度以上になるとシストの休眠状態が破られ、感染仔虫が増殖して遊泳を開始し宿主に寄生する。」という理論が立てられました。
その為、私は「
この理論によれば、水槽底面に絶えず溶存酸素の豊富な水流を供給し、シストから出た白点子虫を除去フィルターにて濾し取りつつ、水槽底面にシストが溜まらない様な工夫をすれば良いと言う事になる。
その為、白点虫に弱い生体に対しては、本水槽内に溶存酸素の乏しい嫌気域を設けない方が良いと言う結論になるのですが、皆さん如何でしょうか
」と言う事を掲載させて頂きました。

ですから、私も単純にシストが目覚める要因は溶存酸素の濃度変化だと思っていた時期がありました。
しかし、後で良く考えて見るとたったの高さ45〜60センチのホビーレベルの水槽では、果たして上記の様な水温差があるのでしょうか?それによって溶存酸素濃度の差があるのでしょうか?
底砂があれば、ミクロのレベルでは溶存酸素量に差があり得るかも知れませんが、残念ながらそうでもないのではないか?と言う現象を目の当たりに経験した事柄をご紹介したいと思います。
そして、皆さんも一緒に考えて欲しいと思います。。
それも一回ではなくて2〜3回同様の現象が起きるのを確認しました。
そのキッカケは白点虫を除去したり殺菌したりする装置のないトリートメント水槽でのある出来事でした。
但し、シストが溜まらない様な工夫が大切と言う点については変わらないと思います。もし、溜まれば排除すれば良いのです。
私のトリートメント水槽は、60規格の白点虫を除去したり殺菌したりする装置のないベアータンクです。
この水槽は治療水槽・病院水槽です。(今回は、白点病に限って話をします。)
白点虫に罹り体力低下、例えば、水槽の隅にじーっとする様になった?えらの呼吸が早くなった?体表に血が滲んでいる?ヒレが切れたり無くなっている?目がうつろになったりする?とそのような表情が現れば躊躇する事無く捕獲してトリートメント水槽に入れます。
これに低比重治療法とマジカルウォーター添加の併用で治療するのですが、初期の段階で底面にパワーヘッドによる水流がありません。
これは、魚の状態にもよるのですが、弱っている場合は底面に水流をつけず、これにて体力の消耗を防ぎます。
そうしますと完全に治癒しますが、シストはトリートメント水槽の底面に沈んで行きます。
そこで、再びパワーヘッドで底面に水流をつけたり、パ゙ケツの様な物で底面を巻き上げる様な海水の追加方法では白点虫の再発が見られました。
ここで疑問点が浮かび上がります。
シストは、硫酸銅に対しても耐薬性がある位の丈夫な殻を持ち、果たして溶存酸素濃度の変化が分るのでしょうか?これについては、疑問を持ちます。
その証しに、海水の追加にペットボトルの様な物で底面を巻き上げない様な追加方法にすれば、理論的にはミクロ的な溶存酸素濃度の変化があるにも関わらず、白点虫の再発が起こりませんでした。

むしろ、水流とか?何らかの操作で白点虫のシストを動かす?何かしらひっくり返すとか?その様な物理的刺激によってシストが覚醒するのではないか?と言うのが私の意見です。
と言うのも、良永室長は白点虫の発生が海水温が下がり始める秋口に集中すること、台風通過後にも発生することがあることに気付いた点があります。
海水温が下がり始める秋口に集中する事と言うのは、これは溶存酸素濃度の上昇もありますが、それよりも日本特有の季節であり日本の海域の事であって熱帯地方の話ではありません。
海水温が下がり始める事で魚達の体力低下を招き生体防御力が低下する可能性があります。
溶存酸素濃度の上昇に伴いシストが覚醒すると言うのは、上記のトリートメント水槽での出来事からは考えにくいのです。
やはり、シストを覚醒させるのは、水温低下による水流の変化?台風通過に伴う水流の変化などの物理的刺激による可能性が高いと推測しております。

そこで、白点虫を除去したり殺菌したりする装置のないトリートメント水槽で換水する場合は、底面に残ったシストに刺激を与えない様に下記の如く慎重にする必要があります。

@トリートメント水槽は、基本的にベアータンク(砂を敷かない水槽の事)です。
 底面を触らずに水槽の上半分の海水を別容器に移します。(その時、底面は絶対に触らない事です。)
 底面にパワーヘッドを着けませんでしたので、底面にはシストが残っている可能性が高いと思います。
Aチョウチョウウオを網で捉えず手で優しく捕らえる為に、水槽内の海水をチョウチョウウオの背鰭の高さまでにし
 てからチョウチョウウオを別容器に移します。チョウチョウウオの入った別容器にはエアーレーションをしておきま
 す。
B水槽の下半分の海水で底面も含めた水槽内をタワシで擦り、その後、その汚れた海水を捨てます。
C水槽内の海水を抜き取り、それから水温40度以上の水道水を半分入れます。
 そして、ウールで水槽の底面や側面をゴシゴシと徹底的に洗い、白点虫のシストを残さない様にします。
 それをすべて抜き取り、水槽内の半分位、水道水を入れます。
D注入時の水道水の塩素が殺菌を助けると思います。後に、中和材を入れ人工海水の素を入れます。
 十分に掻き混ぜて、比重が1.023、水温25℃になっているのを確認し、後足りない半分は別容器の海水を汲んで
 足してやります。 水槽内の海水が満杯になったところで、濾過槽と繋げて循環させます。
E生体の入った別容器の海水は、チョウチョウウオの背鰭の高さまでにしてから水槽からの海水を入れて水合わ
 せをします。別容器の海水が満杯になれば、その半分を元の水槽に戻して足して行きます。
 これを繰り返して、水槽内の海水と別容器内の海水が同じになれば、チョウチョウウオを網で捉えず手で優しく捕
 らえる為に別容器内の海水をチョウチョウウオの背鰭の高さまでにしてから生体を水槽に戻して終わります。
F底面にシストを残さない様にパワーヘッドを取り付け、底面に水流を付与し常に刺激を与えます。
 最初にパワーヘッドを取り着け底面に水流を与えなかったのは、チョウ達を環境に早く慣れさせる為です。
 違う環境に移されては怯えているはずですから、暗く静かな環境が望ましいのです。
 照明もあまり点けない方が良いでしょう。
 これで白点虫が認められなければ、次のステップとして比重を戻して行きます。

この様にすれば、シストが覚醒するのを防ぐ事が出来ます。

ここで検証するのに見逃せない幾つかの重要な条件があります。
トリートメント水槽は、海水用上部濾過層のみで底砂を敷かない60規格ベアータンクである事。
最初は正常な比重1.023である事。水温27度。
治療する時はマジカルウォーターの添加と低比重治療法ですが、最初は底面水流の付与無しです。
この状態で白点病が完治しました。
当然離脱した成虫は、低比重の環境変化に対応してシストになり底面に沈殿するでしょう。

そこへ、@の方法として、パケツの様な物で底面を巻き上げる様な海水の追加方法ですれば、白点病の再発が見られました。これについては、その際に底面に酸素を供給したと言う事で溶存酸素量の増大をあげられるでしょう。
しかし、Aの方法として、換水する事無く再びパワーヘッドだけで底面に水流をつけただけでも、白点虫の再発が見られました。
もう一つ、Bのケースとして、治療水槽では水温を常時27度に設定しますが、偶然にもヒーターが壊れた事に気がつかず、ある時に水温の低下を発見した事があり、この時白点病の再発は認められませんでした。
水温が低下すれば27度設定時よりは理論的に溶存酸素濃度が高くなるにも関わらず、白点病の発生は認められませんでした。
その延長として、Dエアーストーンにて酸素供給して飽和状態であるにも関わらず、再発は認められませんでした。

他に、Eのケースとしては、水槽内を完全に熱湯消毒にも関わらず、濾過槽の半分メッシュに入ったろ過材を取り抜き飼育水にて洗浄後、戻した後白点病の発生が認められました。

以上の事から、これらを統合すれば水槽では溶存酸素濃度変化によってシストが覚醒するのではなく、水流などの白点虫のシストを動かす?何かしらひっくり返すとか?その様な突発的な物理的刺激などの環境変化で起きる可能性が高いと言う事を示唆(しさ)しているのではないでしょうか?
そうすると、結論として白点虫に弱い生体に対しては水槽底面に絶えず溶存酸素の豊富な水流を供給する事によって絶えず物理的刺激を付与し、シストから出た白点子虫を濾過槽にて濾し取りつつ、水槽底面にシストが溜まらない様な工夫が大事になる。
その為、白点虫に弱い生体に対しては、メンテナンスの事を考えますと本水槽内に止水域あるいは溶存酸素の乏しい嫌気域を設けない方が良く、嫌気域は水槽外に設置する方が好ましいと言う結論になるのです。
ウェブサイトによっては、 従来濾過だから白点虫が出る?濾過槽がないから白点虫が出る?と言う話が出ますが、見当違いも甚だしいのです。
水槽に濾過槽の有る無しにも関わらず白点虫の出ない安定した水槽と言うのは、これら白点虫に刺激を与えていない水槽である事と、新たな別ルートからの白点虫の侵入がない水槽である事の可能性が高いのではないでしょうか?