貴方の飼育法は西洋的?東洋的?

仏教の説話に出て来るお話ですが、物事に対する理解の仕方として非常に面白いお話があります。
要するに、物事の全体像を捉える事の難しい事の譬えですが、海水魚飼育にもあい通じるものがあります。
例えば、目の見えない人が幾人が居たとして、「象」と言う動物を触る事にします。
ある人は、象さんの耳を触れば「ウチワの様だ」と言い、別の人は尻尾を触れば象さんは「紐の様だ」と言い、象さんの足を触れば「丸い太い木の様だ」と言って来る訳です。
部分観としては当たっており間違いではありませんが、全体像を捉えていない訳です。
それと同じようなことが我々には結構散見されます。

例えば、実践の裏づけが無く周りから色々な話を聞いて推理したり、逆に実践したけれども誤って誤解してしまう事もある事の戒めでもあります。
つまり、思い込みなどはその最もたる一つですが、物事を正しく理解することの難しさを言っている訳ですね。
実践なき知識は机上の空論に過ぎないし、データや知識による裏づけの無い経験のみでは他人に対して説得力を持ち得ません。
いずれも戒めなければならないお話です。

皆さんはチョウチョウウオなどの白点に罹りやすい海水魚を飼育するのであれば、海水魚の病気予防に殺菌灯やオゾナイザーを使用されている事でしょう。
これらを設置する事によって白点虫の蔓延予防が出来るのは、これもまた事実です。
私も、最初は白点に弱いチョウチョウウオ飼育をするのなら殺菌灯が必須だと思っていた時期がありました。
これはこれで上手く行っていて、殺菌灯設置が当たり前と信じて疑わずにいました。

ところが、どういう訳か?見えざる神様のいたずらなのでしょうか?
水槽をリビングからベランダに移して設置し、色々な器具を足して設置しているうちにやがて殺菌灯が点灯しなくなって来た様です。
この殺菌灯は、レインボーQL40のものです。
国産のものは15Wで使用出来るのですが、マンションなので家庭の電圧の問題でアメリカ製の殺菌灯が使えなくなりました。
ある時、システムの変更で二つの殺菌灯を外し白点虫除去フィルターのみで対応する実験に踏み切った所、これでも飼える事に気づきました。
この時になって、飼育者自身の心の中に思い込みなのか?恐怖心なのか?見えない心の壁なのでしょうか?あるんですね。
これに気づいて克服出来た時の喜びは大変大きなものでした。
オゾナイザーや殺菌灯がなくても、珊瑚水槽の中でもチョウチョウウオが飼育出来るんです。
もちろん、べアータンクではありません。

この時になって、飼育の方法が西洋医学の思想、東洋医学の思想に相通じるものがある事が分かりました。
これらを教えてくれたのはTAOさんでした。
この方は東洋医学の鍼灸の先生で自然環境に対する造詣が非常に深いものがあります。
又、水槽を地球の様な方法にするとコストがかかるとのお話もあり、実践して見てその意味も分かって来ました。
やってみないと結局分からないんですね。
実際の海にある様な環境を100%再現しょうと思えば、非常にコストがかかるのです。
一般家庭ではそれが難しいと思いますし、実際問題としてはどこかで妥協せねばならないのです。
ですから、色々な方の飼育の話を聞いているだけでもその方の思想が垣間見えて面白いのですが、だからと言って、こうせねばならないと言うものではありません。
幾つかの実践により、自然環境に対する理解の過程において結構遠い道のりの様に思いますが、自然と言うものを理解したければ実践することによって確かめられる様です。
もちろん、知識の習得が前提です。
答えは、すべて自然界にあるのです。

良く考えて見て下さい。
自然界では紫外線殺菌灯もヨウ素殺菌筒もありませんし、硫酸銅も薬剤も何もありません。
又、自然界では水槽のリセットの様に熱湯消毒する作業などがありませんし、自然界のあるがままの姿で魚達は健康そのものです。
串本海中公園の水中展望搭からの観察では、健康な個体でも白点虫の付着を確認出来ましたが、見る角度によっては見えない場合もある様です。
おそらく、水中に潜っても水中眼鏡では確認出来ない可能性があり、この点については一考を要します。
自然界ではもちろん寄生虫も多いですが、それらに負けないだけの体力を野生の魚達は保持している様です。

何故でしょう?環境が良いからなんですね。
病気になるのは、良い環境を提供していないからなのです。あるいは、生態系が崩れば?です。
人間でも環境が悪ければ病気しますから、すべては環境次第ですから当然「食」の問題に行きつきます。
仏教でも「依正不二」、マクロビオティックでも「身土不二」と言う法則があります。
環境と生物は「一体不二」であると言う意味です。両者が足して「二」ではなく、「二」にあらず一つだと言うのです。
それ位、生物は環境に依存しているのです。
又、環境も生物の影響を受けバランスをとる様になっており、そこにある生態系が成立し、それが自然の織り成す絶妙でもあるのです。
生物が居住している環境には、その生物に合った餌がある訳です。

この様に、生物と環境も含めての全体像に対して身を持って理解する事が必要なのです。
その為には、知識の習得と共に経験が要ります。


本水槽で白点とどう付き合うか

このコラムを読んで異端と思われた方がいらっしゃるかも知れません。
上記の「飼育の方法が西洋医学の思想、東洋医学の思想に相通じるものがある事が分かった・・・・・・・・・・・・・・」と言う部分ですが、今回は少し触れて説明していきたいと思います。
これは、白点に対する我々飼育者の考え方や対処の仕方が西洋医学的か東洋医学的対応かと言う事です。
あるいは、その中心かその傾向性がある?なとも言えますね。
西洋医学というのは、病気を人体の外側から注射や投薬により治療したり、手術によって病巣を除去したりと言う様にアプローチする方法で、皆さんのおなじみの方法です。
これは、一般的に病院であれば殆どがそうですね。

対して、東洋医学と言うのは、病気があれば鍼灸やその他の方法によって人体の持つ自然治癒力を高めて病気を治していくと言う様にアプローチしていく方法です。
現在は、殆どの診療所の一般的ベースになっている西洋医学のそれ以外のすべての医療があり、これをオルタナティブメディスン・代替医療と呼ばれています。
ハーブや民間療法、鍼灸、漢方薬などの東洋医学や、熱帯地方のアマゾンや 南米の密林に生える薬草など、そう言った色々な治療法を探し出し、現代医学の方法で安全性と効能を評価していこうという取り組みが西洋医学の側から起こり、CAM(Complementary and Alternative Medicine: 相補・代替医療)と呼ぶ様になりました。
更に、日本食品機能研究会主催の「インターナショナルワークショップ」では、これまで、ホリスティッ ク医学、シュタイナー医学(人智学医療)、ホメオパシー、クナイプ療法、ヒーリング、フィトセラピー、心理療法、音楽療法、ガンの温熱療法、インドの伝統的治療であるアーユルベーダ、ガンの免疫療法、ガン患者に対する心理的アプローチなど、こう言ったものを 補完療法(complementaryMedicine)と通常医学(conventionalMedicine)との単なる足し算で はなく、いったんばらばらにして、これを集めなおして全く新しい体系医学を作っていこうと言う事で統合医療を作ろうとしています。
今は、これからはそう言う時代なのです。
統合医学の本質とは何でしょうか。詳しい事は下記のサイトをご覧になって下さい。
            ↓
http://www.jafra.gr.jp/workshop.html

話がそれてしまいましたが、例えば、本水槽で飼育する時に殺菌灯やヨウ素殺菌筒を取り付ける、あるいはオゾナイザーを炊くと言うのは西洋医学的な対応ですね。
そして、本水槽に硫酸銅を入れて治療すると言うのも、これも又西洋的ですね。
トリートメント水槽で低比重治療法やマジカルウォーターを入れて治療するのも、西洋的です。

これらに対して、本水槽でも濾過によって自然治癒させるのは東洋的ですね。
又、海藻水槽の中で自然治癒させる方法もあり東洋的ですが、これに殺菌灯・ヨウ素殺菌筒・オゾナイザーが付けられていたら本物とは言えません。

しかし、そう言う方法もあると言う事で否定するものではありませんし、東洋的な方法と西洋的な方法との組み合わせも考えられます。
串本海中公園の水中展望搭からの観察では、魚達は健康そのものであり健康な個体でも少しの白点虫の付着を確認出来ましたから、この状態をどうやって再現するか?です。
(誤解の無い様に申し上げれば、白点虫があった方が良いというのではありません。念のため)
実際の自然の海では、紫外線殺菌灯もヨウ素殺菌筒もありませんし、硫酸銅も薬剤も何もありません。
水槽のリセットの様に熱湯消毒する作業などもありません。
つまり、海の中では、白点虫を殺す作用が一切ありませんし、その方法もありません。これが肝なんです。
要するに、自然界では白点虫を遠ざけるだけです。
皆さんの言うような「白点治療」と言う治療方法そのものが自然界には存在しないのです。
その様な訳で、自然界では白点が蔓延しても大抵はゆっくりと収まると思います。
本水槽でも弄って白点が蔓延してもゆっくり収まる? 「白点虫はいるけど、大発生しない環境」 この自然界と同じような仕組みを水槽に再現出来たら、貴方は自然界を理解した事になるのではないかと私は考えています。
こう言う事を体験させて頂きました。
と言う訳で、御自身の飼育レベルに合わせた無理の無い方法を採り入れてその飼育を成功させてやっていきましょう。